終わらない物語を君へ

 みどりは赤くなりながら、考えた末、勇気を振り絞った。

「扉、閉めるね!教えるからやって!」

「扉……?」

 蓮は少し首をかしげつつも、素直に頷く。

 みどりは扉を閉め、ドア越しに声をかける。

「よし、シャツからね。まずシャツを脱ぐの」

「わかった……こう?」

 扉の向こうから、シャツを脱ぐ音が聞こえる。
 みどりは息をひそめ、耳だけで動作を確認する。

(こんなの変態みたいじゃん)

 こんなあり得ない状況――
 みどりは気付けばタオルをぎゅっと抱きしめていた。

「次はパンツも脱いで、シャワーを出す!」
 指示を出すみどりの声は、自然と少し震えていた。
 蓮は純粋に従順で、声だけのやり取りでも真剣に動く。


「お湯を出して、まず頭にかける……うん、そうそう、シャンプーは2プッシュくらいかな」

「こうかな……?」
 蓮の声が、扉越しに届くたびに、みどりの胸はドキドキと跳ねる。
 見えないけど、間近で触れられる距離にいることが、こんなにも緊張するなんて。

「体は……タオルで優しく洗うんだよ。ゴシゴシじゃなくてね」
「わかった!」
 扉越しのやり取りなのに、蓮の無邪気さと真剣さが、胸を熱くさせる。

 一通り教え終わった頃、蓮の嬉しそうな声が聞こえた。

「できたよ、みどり!」

「う、うん、……よかったね」

 声だけのやり取りでも、達成感とドキドキが入り混じる。
 扉越しで教えるだけでも、みどりにとっては初めての“二人の距離感”を実感する瞬間だった。