終わらない物語を君へ

 静かな部屋に、低く「グゥゥ…」という音が響いた。

「……え?」
 みどりは手を止める。

 それは自分ではなく、確かに彼のお腹から聞こえた音だった。

 振り向くと、蓮が少し恥ずかしそうに肩をすくめていた。

「……お腹、すいた?」
 思わず聞くと、蓮は小さく笑った。

「そうかもしれない……。お腹が空くって、こういうことなのか」

 その言葉に、みどりは胸がぎゅっとなる。

 普段完璧な彼が、ただお腹が空いたことで無防備に見える――その瞬間、心臓が跳ねる。

「じゃあ……ご飯、作ろうか?」
 思わず口にした言葉に、蓮は嬉しそうに頷く。

「うん。食べてみたい」

 みどりは包丁を握り、火をつける。

 普段は一人で作る料理も、今日は誰かに食べてもらえる。しかもそれが、ページの中の彼だなんて――胸が高鳴る。

 蓮は横で興味津々に見つめる。

 包丁で野菜を切る手つき、フライパンで炒める動き、火加減の微妙な調整――
 全てが珍しいようで、目を輝かせながら「なるほど……」と呟く。

「初めて見るんだ……本当に作るところを」

 その言葉に、みどりは少し照れ笑いをした。
 でも心の奥は、誰かに見られている喜びで満たされていた。