終わらない物語を君へ

 次の指示は――『本を読む』

 蓮は棚から小説を手に取り、ページをめくる。

 文字を目で追うのは初めてではないが、普段は物語の中に自分がいて、読む必要なんてなかった。

 だから、なんだか不思議な感覚だ。

(……読むのも面白いかもしれない)

 文字の一つひとつが、普段見慣れた景色のように目に入る。

 そして、みどりがいつもここで本を読んでいたのかと想像すると、少しだけ心がくすぐられた。


 その次の指示は――『おやつを食べる』

 蓮は冷蔵庫を開け、みどりが置いておいたスナック菓子を手に取る。

 袋を開ける音、かじったときの軽い感触。
 どれも新鮮で、思わずくすっと笑ってしまった。

(……みどり、こんな風に過ごしてるんだな。楽しそうだ)

 テレビをつけ、本を読み、おやつをつまむ。

 蓮は、みどりのメモに従いながらも、自分なりに楽しむ方法を少しずつ見つけていった。

 ふと、窓の外を見やると、夕暮れが差し込んでいた。
 長い1人の時間も、気づけばあっという間に過ぎている。

(……でも、やっぱりどれもみどりと一緒がいいな)

 蓮は小さくつぶやき、再びメモに目を落とす。

 明日は何をして過ごそうか――そんな思いに胸を躍らせながらも、心のどこかで、みどりの帰りを待ち望んでいた。