終わらない物語を君へ

 それからも、みどりとの接点はなかった。
 別に作ろうとも、思わなかった。

 ただ同じ学内ですれ違い、遠くから姿を見かけて、それだけで時間は過ぎていった。

 大学二年を過ぎた頃、みどりの雰囲気が、少しだけ変わった気がした。

 前より柔らかい。
 でも、気のせいだと思っていた。

 けれど、ある日、出先で偶然見かけて、その理由が分かった。

 背の高い、見た目のいい男と並んで歩いていた。
 距離が近くて、歩く速度も同じで、並んだ背中が、やけにしっくりきていた。

——ああ。

 二人は、すごくお似合いだった。
 そして、幸せそうだった。
 あんな顔で笑うんだ。

 それを見た瞬間、なぜか胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 理由は分からない。
 分かりたくもなかった。

 次の日さぼりがちだった講義の時間。
 教室に入ると、みどりはいつもの席に座っていた。
 その隣だけが、ぽっかり空いている。

 少し迷ってから、何でもない顔で、そこに腰を下ろした。

「ここ、俺の場所」

 独り言みたいに呟くと、みどりが一瞬だけ、驚いたようにこちらを見る。

 それだけで、胸の奥がどきっと音を立てた。

——近づきたいわけじゃない。

 ただ、もう。
 遠くで見ているだけじゃ足りなかったんだ。

 その理由に、俺はまだ、気づかないふりをしていた。

 変わったのは、今、俺がみどりの隣にいるという事実だけだ。

 特別な言葉を交わしたわけでもない。
 距離が縮まった実感も、まだない。

 それでも、遠くから眺めていた時間に比べれば、これは確かな変化だった。

 彼女は相変わらず静かで、必要なことしか話さない。

 俺も同じだ。

 ただ、同じ授業を受け、同じノートを広げ、同じ時間を過ごしている。

 それだけ。
 それだけで、今は充分だった。