「……っ(どうしてここに彼女が)!?」

 屋敷へ戻ったクロードは、中庭にいるアリシアの姿を目に留めて体を硬直させた。着飾ったら綺麗だろうと思ったが、想像の上の上のさらに上だ。

(俺はどうしたら……)

 視線を彷徨わせると、柱の後ろに無数の人影が見えた。カイトに中庭を通れと言われた理由を理解して、クロードは手を握りしめた。

(あいつらぁぁぁ!!)

 クロードの視線に気づいた執事のサンチェスは、わざとらしくアリシアに話かけろとジェスチャーをした。

(何を言ってるんだ、サンチェスは!あぁ、だめだ。戻ろう。)

 クロードが引き返そうとすると、クロードに気づいたアリシアが駆け寄ってきた。

(こ、こっちへ来るな!)

「先ほどは、ありがとうございました。」
「え、あ、あぁ……どうも。」

(もうちょっと離れてくれ!眩し過ぎる!)

「使用人の方を見ませんでしたか?」
「いや……見てないけど?」
「そうですか。」

(ちゃんと話せているのか?俺は……)

 チラリと柱の影に視線を移すと、サンチェスがエスコートして連れて行けとジェスチャーをしている。

(エスコートだと!?無理に決まってるだろ!)

 エスコートをするには、彼女と接触しなければならない。ちらりとアリシアを見ると、キョロキョロと辺りを見回していた。

(マーシャを探しているのか……)

「……へ……部屋まで送ろうか?」
「わかるんですか?」

「ま、まぁ……それくらいは。」
「ありがとうございます!お願いします!」

「じゃ、こっち。」
「はい!……っ……わっ!」

「!?」

 クロードはドレスに躓いたアリシアを咄嗟に支えた。

(うぉぉぉぉぉぉ!!)

「すみません!」
「あ、いや……大丈夫?」

(俺、生きてる……?)

 事故ではあるが、ガッツリ抱きしめてしまった。

「すみません、本当に……ドレスなんか初めて着たから……」
「すごく似合ってるよ。」

 思わず声に出してしまったら、アリシアの顔がぽっと赤くなった。

(可愛い!可愛すぎる!なんなんだこれは!)

「と、とりあえず……中へ入ろうか。」
「はい。すみません。」

 必死にドレスを持ち上げて歩くアリシアは可愛いけれど、また転んでしまうのではないかと不安だ。

(抱えて行った方がいいか?いや、だめだ。抱えるって俺は何を考えてるんだ!)

「あ、あのさ……つかまったら?」

 理由をつけてエスコートすればいい。そう思って腕を差し出すと、アリシアは申し訳なさそうにしながら、ぎゅっと腕にしがみついてきた。

(ちがう!エスコートはそうじゃない!だけど……もうこれでいい!)

 感無量のクロードは、アリシアを連れて屋敷の廊下を進んだ。

「きゃあ!急展開!サンチェスさん、見ましたか?」
「あぁ。クロード様が女性を抱きしめて、エスコートするなんて……あぁ、涙が……」
「カイトさんに報告しなきゃ!」

 クロードとアリシアを見守りながら、使用人たちはひたすらざわざわしていた。