「マーシャは辺境伯様が『悪魔』と呼ばれてること知ってる?」
「はい。ヴェルシュタールでも有名な話です。」

「このお屋敷の人やヴェルシュタールの人はどう思ってるの?嫌ではないの?」

 辺境伯様の噂は本当か嘘がわからないものを含めて怖いものが多かった。だけど違和感があった。国を守っている人をどうして悪魔なんて呼ぶのか。身を挺して国を守ってくれている人を悪魔呼ばわりするなんて、おかしい気がする。

「国を守ってくださっているのに、悪魔なんて呼ばれる筋合いはないと思うわ。」

 マーシャは何も言わない。顔を上げると、マーシャは両手で口を押さえて目を潤ませていた。

「アリシア様、優しいぃぃ!そんな風に旦那様のことを思ってくださるなんて!さすが奥様っ!」
「だから、奥様というのは……」

「使用人のみんなを紹介させてください!奥様がいらっしゃるのを、我々は首を長くして待っていたんです!」

 マーシャに連れられて私はお屋敷の中を歩いた。会う人会う人涙目になって私を歓迎してくれる。

(みんな奥様奥様って言ってるけど大丈夫かな……辺境伯様が結婚しないって言ったら終わりなんだけど……)

 広い部屋と華やかなドレスはテンションが上がるけど、結婚が白紙になったらこのお屋敷を出て行かなければならない。

(ここの使用人は待遇が良さそうだけど、結婚を白紙にされてここで働くっていうのは気まずいよね……)

 今後のことをあれこれ考えていると、塀で囲まれた小さな庭が見えた。色とりどりの花が咲いていて、とても綺麗だ。

「素敵な庭ね!」
「お花はお好きですか?」

「もちろんよ。ヴェルシュタールにはいろんなお花があるのよね!」
「ここでは新しい品種の花も栽培しています。ゆっくりご覧になっていてください。その間に、お部屋を整えてきます!」

 マーシャを待つ間、庭園に咲く花を見ることにした。城にある計算し尽くされた庭園も綺麗だけれど、ここにある自然な庭の方が私は好きかもしれない。

「こんな色のマリーゴールドは初めて見たわ。こっちの花はなんていう名前なんだろう……」

 私は花壇の間にしゃがみ込んで、花を眺めていた。