「運命って本当にあるんだな……」

 クロードはアリシアが持ってきた国王の手紙を見ながら呟いた。

 これは、戦場に出てばかりで出会いがない辺境伯を心配した王太子が計画した──貴族の名簿に載っている未婚女性に端から手紙を送りつけるという迷惑極まりない行為の一端。当然、こんな手紙を鵜呑みにしてヴェルシュタールまで来た人間は初めてだった。

 アリシアは、国王や王太子と対面する機会がなく、金銭的に困難な状況という条件が重なったから結婚を決意したのだろうけど、そんなことはどうでもいい。

「ありがとう、アリシア。俺のところへ来てくれて。」

 彼女を見た時の衝撃は忘れられない。一瞬で心を奪われて思考が停止した。あんな経験は二度とないだろう。

「早く会いたいな。」

 さっきまで話していたのに、もう寂しい。早く夜が明けないかと思っていると、勢いよく扉が開いて騎士のカイトが駆け込んできた。

「クロード様!」

 アリシアの顔を見てから出たかったけど、それはできないみたいだ──

 ♢♢♢

 山中の森深くでは怪しい影がゾロゾロと列をなしている。戦場には不似合いな絢爛豪華な椅子にどかりと腰掛けた男は、ゆっくりと髭を撫でた。

「今に見ていろヴェルシュタールの悪魔め。今度こそ仕留めてやる……」

 不穏な空気は確実に近づいていた──