「アリシアちゃん、このお花を向こうの花瓶に入れてくれる?」
「わかりました。」

 私は、近所にある花屋さんの手伝いで城を訪れていた。廊下に並ぶ花瓶の花を順番に取り替えていると、向こうからたくさんの人が歩いてくるのが見えて、慌てて廊下に散らばっている花をまとめた。

「またヴェルシュタールに侵攻があったらしい。」
「あの悪魔が討ち返したんだろ?連戦連勝、無敗なんて恐ろしいよな。」
「だからと言って、突破されたら困るけどな。ははは。」

 城でよく耳にするのは、北部にあるヴェルシュタールという領地を治める辺境伯様の話。

 ヴェルシュタールは隣国との国境沿いに位置しており、頻繁に敵国の侵攻を受けているという。だけど辺境伯様は、絶対的な強さで敵兵を殲滅させているという。
 
 ただ、その戦い方は酷く残忍で『悪魔』と噂されていた。

(国を守ってるんだから、悪魔なんて言わなくてもいいのに……)

「アリシアちゃん、次は庭園よ。」
「はい!今行きます!」

 結婚の話が舞い込んだのは、このあとすぐのことだった──