私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ

「駄目じゃないこんなに長く私から離れるなんて」


「かー、さん?」


少しずつこちらに腕を伸ばしながら近付くその姿に後退る。


「駄目よ、また私から離れるつもり?」


「ッ!」


勢いよく腕を捕まれ肩が震える。どうしよう、さっきから会話が噛み合わない。


かーさんの様子が、どこか可笑しい。


それは分かってるのにどうすればいいのか分からなくて言葉にならない声が出るだけ。


どうしよ、どうすればいい!?


誰か、誰か助けてッ。


俯きながら目を瞑る。はやくこの時間が過ぎればいいのにッ。





「ひさくんを愛してるのはこの私だけなんだから」






かーさんの言葉にはっとして顔を上げる。


ひさくん、ってとーさんの名前・・・。


それだけじゃない。目の前の人物の姿に思わず目を見開く。


頬を赤らめながら今まで一度も見た事のないような瞳をその人はおれに向けていた。


何かが欲しいと訴えてるみたいな、そんな目。


呆気にとられている間におれは押し倒されてしまう。


『文くんってひさのりに瓜二つだよね。君を見てると学生の頃のあいつを思い出すよー』


誰かに言われたその言葉を何故かおれは思い出していた。


なんでこんなタイミングで思い出すんだよッ!?


どうかそれは勘違いであって欲しい。


そう願うも時間は止まらない。


目の前の人はじっとおれの事を見つめながら細い指を服の下へと伸ばしてくる。


肌に触れた瞬間気持ち悪さが全身を駆け巡る。