私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ

葬式が終わってしばらくしておれたちは住んでいた家に戻った。


大人達の監視は必要じゃないかっていう声もあったけど、皆の心配を他所にかーさんは落ち着いていた。


その様子に周りもやっと諦めがついたのかと判断したみたい。


とーさんはもういないけど、また昔みたいに過ごせる日が来るかもしれない。そんな淡い期待をおれも抱いていた。








それから数年。


高学年になったある日。


「行ってくるねかーさん」


いつものようにリビングに居るはずのかーさんに向かって声を掛ける。


ドアを開けようとドアノブに手をかけた時、リビングからこちらへ向かってくる足音がする。


まさか、


「・・・行ってらっしゃい」


そこにはにっこりと微笑む母親の姿。


「!」


はじめて聞いた挨拶。


はじめて見た笑顔。


それだけでどうしようもなく嬉しい。


皆に報告しようと走って待ち合わせ場所まで行く。


はじめておれの事見てくれた!


前へと進む足は徐々に早くなって行く。


浮かれていたおれは知らなかったんだ。








閉じた玄関を見て、





「・・・ひさくんが戻ってきた」





そう呟いた事を。