私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ

気付けば何も告げずにその人物を追い掛けていた。


今すぐにでも捕まえたいのにこの人混みで上手く動けずにいる。


「まって!まってよ!」





すぐそこに居るのに辿りつかないこの状況がなんとも忌々しい。


なんとか人混みを抜け出しその人物が曲がり角に入る瞬間、その腕を掴む事ができた。


「・・・久しぶり皐月。元気してた?」


壁に押し付けるようにして捕まえた人物は顔色一つ隠さず最後に会った時と変わらない態度で僕を見下ろす。


フードが外され露になった、僕と反対の位置に入れた赤のメッシュに柔らかそうなミルクティー色の髪の毛。


気怠げなアーモンドアイでありながらも涙ボクロで強調された無駄な色気。どれも数ヶ月前と変わらない。





「なんでここに居るの・・・"兄さん"」





「んー、皐月に会いに?」


ふんわりと笑いながら首を傾げる兄さん。昔からこの笑顔が好きだった。


だけど僕達は今、そんな気軽に会えるような立場ではない事ぐらい兄さんも分かってるでしょ?


僕の兄さんである橘 伊月。


兄さんは僕と同じ、


──────西の大罪人の一人、"怠惰担当"なんだから。


こんなおっとりしていて虫も殺せないような見た目をしてるけど正真正銘西の人間の上に立つ者だ。