私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ

「ふー、」


鍵盤に指を乗せ、力を込めて演奏を始める。


演奏するのはシューベルトの即興曲 Op.90-2。


私の得意とする曲というのもあるけど、優雅で華やかさのあるこの曲はパーティー会場にも向いているから。


私にぴったりな曲よね?


指先は軽く、調子もいい。


私がこの曲でミスをする事は有り得ないし、この私にぱっと出の貴女が叶うはずないのよ。


聴衆がこちらに聞き惚れているのを実感しながら演奏を続ける。


五分間の演奏を終えればこれでもかという程の拍手で迎えられ、その中でお辞儀をしステージから下がる。


どう?この拍手のなかでステージに上がって演奏する気待ちは。


聴衆の目を集めておいてあげたんだから感謝しなさいな。





私と入れ替わるようにしてピアノの前に座る彼女を見つめる。ふーん、様にはなってるわね。


彼女の洗礼された立ち振る舞いには正直に言えば惚れ惚れする。


代々地主の家系と言っていたわよね。父親も会社をいくつか経営してるとも。だいぶ厳しい教育を受けてきたのは見て取れる。


見様見真似で身につけれるようなもので無いのは確か。


私がこの女に怒りを覚えるのはそれがひしひしと伝わってくるからだ。


こちらは興味は無いけど、お前達が目を離す事は許さないとでも言いたげなその存在が癇に障る。