私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ

side,神崎 詩音


スタッフに案内されステージの袖に移動する。


数分後に同じく並ぶ女。


「あら、逃げなかったのね」


「逃げませんよ」


主役の龍二さんに続いてこの場で注目されるべき存在は私なのよ?


なのにちょっと顔が良いからって入場する姿から会場の目を奪っちゃって、気に入らないわ。


あたかも興味ありません、というその態度もね。


まぁいいわ。どれだけ自信があるのか知らないけどこの勝負、私の勝ち以外有り得ないもの。


慢心なんかじゃない。家柄や容姿と同じぐらいにピアノには固執してきた。


国外にも通用する事だって証明してきた。


この場でレベルの違いに大恥をかくといいわ。


国外どころか日本のコンクールでも貴女は見た事ない。所詮素人のクオリティなんでしょうしね。


『それでは演奏をご堪能ください!』


司会の言葉に煌びやかなステージへと移る。


私の後に演奏するだなんて本当に可哀想。そこでガタガタと震えて待っていなさいな。





ポロン、と指を動かし音を確認する。


調律が行き届いた良いピアノだわ。


この日の為にいつも以上に練習してきたんですもの。


この場に相応しいのは私だということを、ここで証明してあげる。