私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ

「はい、もちろん」


・・・やめてくれ。


肯定の文字を並べても今にも逃げ出したいと、訴えているようにしか聞こえないんだよ。


どうすることもできないのか?


無力な自分に、今にも血が滲み出てしまうんじゃないかという程に拳を握りしめる。


「でも一曲だけというのも味気ないわよね。そうねぇ、・・・貴女達もよければいかが?」


挑発するように私と優里に視線をやる神崎。


「あ、あたし達ですかっ?あたしピアノなんて・・・」


「詩音さん、やめてください。彼女達は、」


「いいんですか?」


「ましろ・・・?」


これは絶好のチャンスじゃないか。


今すぐに解決する事はできなくても、時間稼ぎさえ出来れば対策のしようがあるかもしれない。





「是非、弾かせてください。ただ弾くのもなんですしここは一つ、よりこの場を盛り上げた相手の願いを聞くなんてのはいかがでしょうか?私が勝った場合、婚約の話は谷垣さんが高校を卒業するまで待って頂きたいのです」


「面白い事をいうのね、いいわよ。私が勝ったら龍二さん達から離れてくださる?婚約者の周りに異性が居るなんて、・・・ねぇ?貴女なら分かってくださるでしょう?」


「ええ、もちろん」


私と神崎の取り繕った笑顔に冷たい空気が吹く。