私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ

「引越しがとも言っていましたし、最悪の場合転校なんて流れにも・・・」


「白百合女学院と言っていたしな。あの学校と旭ヶ丘の距離を考えたら無い話じゃない」


「龍二くんと離れなきゃなの・・・?」


「分かんない。でも、あの二人なら否定できない」


谷垣の諦めたような声に私たちは押黙る。





私は皆の家柄などに興味は無かったため調べもしなかったが、谷垣のご両親は知る人ぞ知る企業のトップだ。


しかし先程の彼女、神崎グループだと言ったか。神崎グループといえばこの国の金融機関の中枢を国家に並び担っている、古株の大手企業。


どんな家柄でさえもパイプを作ろうと必死だろう。それこそあのような人間にとっては喉から手が出るほどの価値がある。


私達のような子供の意見は軽くあしらわれるだろう。婚約というものはそれほどまでに重要視される取引なのだから。


だからこそ苛立つんだ。


手がない訳ではないが、あの様子からして効くのかさえ分からない。


大人に振り回される人間なんざこれ以上見ていたくはないというのに。


「龍二さんってばこんな所にいたのね」


空気を読まない声がこの場に落ちる。