素顔に花と光を

教室の端っこ、窓際の席。

望月沙里は、赤点のテストを眺めながらため息をつく。

テスト返しが終わると、授業が始まった。

ノートを開きながら授業を聞いているふりをする。

集中力が続くなんてはずがない。

成績が悪いから、せめて、授業態度だけでも、と必死にノートを写す。

まじめな振りだけでもしておきたかった。

勉強も、友達づきあいも、うまくいかない。

キラキラした高校生活なんて、どこにもない。

そんな沙里をよそに、教室の空気は、彼を中心に回っていた。


芹澤吹雪。

太陽みたいな笑顔で、誰かと話している。

彼の周りには、いつも人がいて、笑い声が絶えない。

彼が話すと、教室中の空気が変わる。

まるで、花が咲くみたいに。

「芹澤、お前昨日テレビで見たわ。」

「え、マジ、見ればよかった」

そんな声が飛び交う。

学校生活で、一人のことなんかなさそう。

彼は、芸能界にいて、すごくお金持ちらしい。

でも、それをひけらかさない。

むしろ、飾らない彼の姿が周りに好かれていた。


沙里は、そんな彼を遠くから見つめながら思う。

「いいなぁ、あんなふうに生きられたら」

そう思うたび、胸がちくりと痛む。

自分の生活に普通で、平凡な日々はうんざり。

いや、“普通以下”かもしれない。

でも、本当は――誰にも言えない“好き”がある。

メイクも、ファッションも、雑誌も、SNSも。

誰よりもおしゃれが好きで、鏡の前では別人みたいに笑える。

だけど、学校ではそれを隠している。

「似合わない」って言われるのが怖くて。

誰も、沙里の本当の姿なんて知らない。

そして、彼も――きっと、沙里の存在すら知らない。