素顔に花と光を

吹雪が教室に戻ってきたあと、またクラスの人たちと話し始めた。

でも、やっぱり違う。

笑い方がぎこちないし、反応もワンテンポ遅れている。

沙里は、「なんか違う……」という感覚になった。

今すぐにでも聞きたかった。

でも、教室で話したら、みんなに見られる。

さっきも話したばかりなのに、また声をかける勇気は出なかった。

結局、もじもじしたまま、いつもの放課後になった。

あれから、二人は放課後よく話すようになっていて、今日も最後まで残った。

教室が静かになったころ、吹雪がゆっくり近づいてきた。

「あ、やっほ」

小さな声でそう言われて、沙里は振り返った。

その瞬間、目がばっちり合った。

吹雪の顔を見ると、目の下にかすかにクマができていた。

——寝れてないのかな。 表情も、どこか疲れている。

心配で仕方なくて、思わず声をかけた。

「最近、元気ない感じだけど……」

吹雪は、目をそらしながら答えた。

「……最近、忙しくて。塾とか……」

その言葉に、沙里は顔をしかめた。

「それ……私の言い訳じゃん」

さっき、自分が使った言葉とまったく同じだった。

吹雪は、何かをごまかそうとしている。

でも、それを問いただす勇気は、まだ出なかった。

——本当は、聞きたい。

——でも、どう聞けばいいかわからない。

そのまま、二人の間に静かな沈黙が続いた。

そのあと、吹雪はぽつりとつぶやいた。

「……俺、自分で言うのもなんだけど、いろんな人に期待されてるんだ」

沙里は、黙ってうなずいた。

「でも、それが逆にプレッシャーでさ。  素顔でいたいのに、完璧でいなきゃって思っちゃって……  笑って、答えて、見られて……」

その声は、いつもよりずっと静かだった。 吹雪の言葉が、胸にじんわりと染みていく。

——いつも完璧に見える吹雪が、こんなことを悩んでいたなんて。

——誰にも言えない、重たい悩みを抱えていたなんて。

「吹雪も、悩んでたんだね……」

沙里がそう言うと、吹雪は少しだけ笑った。

「まあな」

「どおりで、最近疲れてそうな顔してたから……」

「……ばれてたか」

その笑顔は、いつもより少しだけ弱くて、 でも、どこか安心したようにも見えた。