素顔に花と光を

教室の窓際。

沙里はスマホを見つめていた。

投稿したばかりの写真と動画には、次々と「いいね」がついていく。

うれしい言葉が並ぶ画面を見て、少しだけ笑みがこぼれる。

でも、胸の奥では、不安が残っていた。

「……現実世界での自分は、やっぱり自分じゃない」

ぽつりと、誰にも聞こえないように呟いた。

画面の中の私は、好きなものを好きって言える。

かわいいって言ってもらえる。

でも、学校では出せない。

怖くて、ずっと隠してきた。

そのときだった。

後ろから、静かな足音が聞こえた。

沙里が顔を上げると、吹雪が立っていた。

彼はそっと微笑んでいた。

「隠すのって、疲れるよな」

吹雪の声は優しかった。

でも、どこか低くて、静かだった。

まるで、自分自身に言い聞かせるような響き。

「ちゃんとしなきゃって、ずっと思ってる。  笑って、元気で、完璧で……そうじゃないと、誰にも見てもらえない気がして」

沙里は、言葉が出なかった。

でも、その言葉が、じんわりと胸を包んでくれるような感覚になった。

「……ありがとう」

蚊の鳴くような声でそう言うと、吹雪は「うん」とだけうなずいた。

その笑顔は、どこか寂しそうで、苦しそうにも見えた。

「ま……自分が言えることじゃないか……」

吹雪は、ひっそりとそうつぶやいた。

「え……?」

沙里が聞き返すと、吹雪はすぐに目をそらして、

「ううん、なんでも」

と、ごまかした。

何かを隠している。

そう思った。

でも、無理やり聞くのは気が引けた。

だから、もう一度だけ言った。

「……ありがとう」

吹雪は、少しだけ微笑んで、

「じゃあね」

とだけ言って、教室を出ていった。

残された教室には、沙里のもやもやした気持ちが静かに残っていた。