私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

「おーおー、怪我はねぇ?」


「うん!僕、男だからね!」


「そりゃすげーや!今度からもうちょい気をつけるんだぞー?」


「はーい!」


軽々と少年を起こし手を振るこいつ。


「ましろんも怪我ねぇ?」


私の心配もするのか・・・。


「ええ。それよりも慣れてるのね」


「なにがー?」


「小さい子の扱い」


「・・・まぁ、弟居ますからねー」


「そう。可愛い?」


「俺の弟よー?当たり前じゃーん」


笑顔を浮かべ少年の背中を見つめる姿に弟を重ねているんだろうなと感じた。立派な兄の顔だ。


ただ、


(なんでそんなに寂しそうな目をするんだ)


という言葉は口にしなかった。


口にしてしまえば踏み込んでしまうことになるから。


「ましろんまた紅茶?炭酸とか飲まないの?」


「いいのよ。炭酸のあのしゅわしゅわとした感じ苦手なの」


「・・・ましろん可愛い言い方するね」


「殺されたい?」


脛に蹴りをお見舞いしてやる。


「いで!それ行動しながら言わないから!」


騒がしいこいつを他所にお湯を入れ直す。


変に大人ぶった態度を取るよりこんな風に年相応の表情をしていればいいのにと思いながらこれも口にしなかった。


きっと私達はラインをお互いに引いて、距離を保っているこの関係が一番いいんだ。