私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

「じゃーねちびっ子。中途半端に暗い顔をあの子の前ですんじゃないわよ?」


外壁のてっぺんから捨て台詞のように告げられる。


「・・・ねーよ」


「ん?」


「ちびっ子じゃねーよ!俺には瑠璃川 文って名前があんだ!」


つーかさっき瑠璃川って呼んだろ!


「なら、私は綾波って名前があるわ」


俺の言葉に悪戯っぽく返したかと思えばそのまま外壁の向こうへと消えてしまう。なんか余裕があるって感じで羨ましいな・・・。


「あーん!ましろちゃん行っちゃった・・・」


膝から崩れ落ちながら優里が隣に来る。


そういやいつもかくれんぼ?みたいな事になってるって言ってたな。今回も優里負けちゃったのか。


「大丈夫か?」


「ありがとう───、っ!」


「な、なんだよ?」


起こそうと手を伸ばそうとすれば顔を見た瞬間に目を輝かせる優里。え、何?何か顔についてる?


「文くん何かあった!?」


「え」


「なんかね、吹っ切れた?って言うのかな。すっきりした顔してる!」


「・・・なんでもねーよ。ただ、」


「ただ?」


綾波(・・・)は違うんだなって」


「文くんそれって────、」


俺は気付かなかった。綾波が居なくなった場所を見つめて僅かに微笑んでいた事を。




















「らしくないことした」


少女は鞄から棒付きの飴を取り出し、それを咥えながら帰路に着く。


(あいつと似ているから。それだけだ)


自身の取った行動に納得できるよう都合のいい理由をつけながら。