私は‪✕‬‪✕‬を知らない I






あれから数分。涙はいつの間にか止まっていてそっとこの温もりから離れる。


綾波の肩は僅かに濡れていて、今更ながら恥ずかしさを覚える。声は抑えたけど十分恥ずかしいとこ見せたな・・・。


ごめん、と謝ろうとするが、


「嫌だったろうに、悪いわね・・・」


そう口にする綾波に止められる。


「・・・嫌、じゃねーよ」




違う。本当はこんな言葉じゃなくてきちんと謝りたかった。


それでも、それだけは否定したかった。


そう、俺は嫌がるどころかどこかほっとしていたんだ・・・。


綾波が戻ってくれた事に、その言葉に、その温もりに、俺は安心した。


少し驚いた様子のこいつを他所にその理由を探る。


理由はすぐに分かった。だってこいつは初めからそうだったから。


俺を欲しいと欲を秘めた目。そんな目でこいつは俺を一度だって見てないんだ。


「あっそ」


冷たい口ぶりだけど困ったように笑うこいつの笑顔は出会ってから一番温かいと感じた。






「あー!!」


遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。


「優里だわ」


そう言って外壁を軽く飛び越えようとするこいつ。この前も思ったけど運動神経めちゃくちゃいいよな。見た目を裏切るっていうか。