私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

ここでは無い遠く。


そんな所を見ている気がする。


「・・・ありがと」


どこか浮ついた心と澄んだ頭では素直にその言葉が出た。


たまにはこうしてどこか見るのもいいのかも。


「・・・俺、優里をいじめてる奴らが許せなくてっ」


「・・・」


「俺だけで解決したくて、何かしなくちゃって、」


「・・・」


ぽつり、ぽつり、


何も考えないこの状態で言葉が零れていく。


この女は、綾波は、ただ黙って聞いていた。


けど、この後は?俺は何が言いたいんだ?




モヤモヤする気待ちを抑えたいのに子供みたいに目頭が熱くなる。




止めらんないや、泣くところなんて見られたくなくて顔を下げようとすれば僅かな石鹸のいい香りと温もりが俺を包み込む。


「・・・いいんじゃない。いっぱい迷って」


その言葉で綾波が俺を抱きしめているのだと分かる。


肩に目元を当てるように優しく頭を撫でられる。


泣いてもいい、そんな風に言われてるようで。



「あんたのお仲間さんはどんなお前でも受け入れてくれる人達なんじゃないの?」



出会ってまだ数日だけど、嫌でも伝わってくるよ。と苦笑するのが分かる。


それを合図かのように涙は止まらなかった。恥ずかしいから声は出さずに。ただ、この温もりを逃がさないようにきちんと抱きしめながら。