私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

「はは・・・」


あの女に俺の面倒を見る義理なんて無いだろ・・・、何期待してんだよ。・・・期待?


訳の分からない考えに今度は頭の中がはてなで埋め尽くされる。


俺、どうしちゃったんだよ・・・。


「なに1人で笑ってんのよ。こわ」


困惑していれば凛とした声が降ってきて、また下げていた顔を勢いよく上げる。


「おまえ・・・」


そこには澄ました顔で立っている綾波 ましろ。表情からは何も分からない。


つーか背高いよな。羨ましい。


そんな俺を他所に隣に座ってペットボトルを差し出して来るこいつ。


・・・くれるのか?


水が入ったそれを恐る恐る受け取る。


「脱水症状が酷い。その1本は飲みなさい」


これを買いに行ってたのか?


聞きたいところだけど、こいつはピンク色の缶のタブを開けて口をつける。・・・いちごオレ。


「これが欲しかった?あげないけど」


「ち、ちげーよ」


否定するように慌てて貰ったペットボトルに口をつける。よく冷えた水が喉を潤していってとても美味しかった。


そこでやっと落ち着けた気がした。


「・・・顔色は大分マシになったかしら」


太ももに肘をついて俺の顔を覗き込むこいつ。


急に立ったりはまだしない方がいいけど。そう呟いて遠くを見るこいつに合わせて視線を辿るけどそこには誰も居ない渡り廊下しかなくて。


けど、こいつが見てるのはそんなんじゃない気がした。