私は‪✕‬‪✕‬を知らない I











時刻22時を過ぎ、場所はバー"segreta"へ。


カラン、カラン、今日も静かな店内へ音が響く。


「紅茶」


フードを被った人間は慣れた様子でカウンター席へ座る。


「おいおいここはバーだぞ?酒じゃなくて紅茶を頼む奴がいるか」


「言えば出るんだからいいだろ」


「おめーが紅茶しか頼まねーからだろ」


悪態をつきながらも男は紅茶を入れる。


その間にフードの人間は瞳から青いコンタクトを外し、赤い瞳を覗かせた。


(瞳に何かを入れるなんざ正気の沙汰とは思えないな)


心の中でそう呟きながらも手際よく白髪のウィッグも外し地毛の黒髪を下ろしそのまま2つ結びにする。


「にしても相変わらず凄いな。これじゃ"ノラと綾波が同一人物"なんて誰も気づかねーよ」


タイミングよく出された紅茶をよく冷まし少女は口にする。


「お前がそれを言うか。あいつら寄越したのお前だろ」


「まーまー、いい事もあったろ?」


「物は言いようだな。・・・確かに保険を掛けれたはいいが」


「だろー?」


お前が言うな、と少女は目で制する。


「ねーねー」


(こいつは何しても無駄か)


少女は諦めたように目を伏せた。