私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

篠宮というのはヒメの秘書兼世話係にあたる人だ。


どうやら現在もヒメの我儘に振り回されているようで。


ヒメの我儘には1日足りとも耐えられる気がしないため、10年以上も付き合ってあげている彼には尊敬の念しかない。最近は会えていなかったため今度会ったら労わろうと心に誓った。


「えっと、先程の話よね。ましろの言ったことは本当よ。私が直々与えた権限だもの」


冷ややかな目で笑みを浮かべるヒメに何も言えなくなるこいつら。


「そういうこと。もう、いいわよね」


今度こそこの場を後にした。










「理事長室行けなくてごめん」


ヒメと横並びに人の気配がない校舎を歩いていく。


「私が会いたかっただけだから気にしないでいいわ」


「・・・それに、ありがと」


あいつらの前では意地で平然を装っていたものの動揺していたのは事実で。あそこでヒメには助けられた。


それにヒメが気づかないわけはないんだ。


「いいのよ。子供は大人に甘えてなさいな」


そうやって不敵に笑うヒメには先程のような子供っぽい要素なんてこれっぽっちも見えない。


あんな風に口は悪くなるものの、ヒメのことは好きだ。以前から頼れる相手で、甘えられる大人だ。


「ましろ」


いつの間にか後ろを歩いていたヒメに振り返る。


「リボン、解けてるわ。大事なものでしょ?」


結び直してくれるのだろう。腕を伸ばすヒメに合わせて少し屈む。