私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

「強いていえばあんたには馬鹿みたいに笑ってて欲しいのよ。辛気臭くて仕方ないわ」


不敵に笑うこの綺麗な少女から目が離せない。


魔性の女とはこの少女を指すんだなと実感した。


「ほら、返事は?」


こんなの、





「はは、お世話になります」





断れるわけないじゃないか。


ああ、久しぶりに心の底から笑えた気がするなぁ。





「早速だけど明日から頼めるかしら。引越し優先でいいから」


「う、うん」


離れていくましろんを見て先程までの姿を思い出し、途端に恥ずかしくなる。


あんなに顔近かったのヤバくないか!?めちゃくちゃいい匂いだったし!?


女の子に免疫無いわけじゃないのにこんなの童貞みたいじゃん!?


こんな顔見られたくなくて、タイミングよく掛かってきた電話に出る。


「はいはい、もしも『奏!』」


電話越しの大きな声で一瞬耳元からスマホを遠ざける。そんな俺の様子を見てましろんは怪訝そうに見てくるけど、俺だってこんな大きな声出す龍二は珍しくてびっくりしてんのよ。


「ちょいちょいどした?そんな慌てて」


『悪い、・・・優里ちゃんが攫われたんだ』


簡素に告げられたその言葉でスマホを持つ手に力が入る。


「どういうこと?」


『終業式の後、優里ちゃんが俺達と離れるタイミングがあったんだ。もちろんその時も護衛は付けてた。けど、その2人ごと連れて行かれたみたいで』


俺達のスマホには何かあれば簡単な操作で通知が飛ばせるよう細工がしてあるからそれで気づいた、ってとこかな。


「場所は?」


昴のことだからゆうちゃんに付けたGPSでもう割り出してるんでしょ。


『・・・南だ』