私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

入口を掃除していたきっちりとした格好の男に事情を説明してお袋に会いたい旨を伝える。


幸いにも子供だと邪険にせず話を聞いてくれた。


(いい人で良かった・・・)


ほっとするも男は困惑した顔をしてこう口にした。








「君のお母さんだけど、先週ここを辞めてるよ」






そこからの記憶は曖昧。


いつの間にか学生服を着たまま夜の街を行くあてもなく歩いていた。


仕事に行ったんだよな?


帰ってくるよな?


何かしちゃった?


これからどうすればいい?


今思えば不満一つ零さず俺達をここまで育ててくれていた中でずっと張り詰めていたものがとうとう切れてしまったんだと思う。


今更になって気付いたけど当時の俺は自分勝手に悩むことしか出来なかったんだ。


急すぎて色んな不安が押し寄せるも、はっとする。





琉生はどうするんだ?





俺一人なら現実的じゃないかもしれないけど住込みで働かせてもらえればなんとかなるかもしれない。


けど琉生は?


入院費や新しい薬が高くて毎月20万近く掛かってるってお袋が家計簿をつけながら言ってたのを聞いた事がある。


頼れる親戚なんていないし、琉生を養って生きていくには最低でも高校は出るべきだ。


どうする?どうする?


ぐるぐると小さな頭を捻ってみるもいい案は浮かばずさらに沼にハマっていく。


「うっ!」

「キャッ!」


考えにふけっていたら何かにぶつかってしまう。


かん高い声を上げたそれはヒステリックに叫ぶ。


「ちょっと!どこ向いて歩いてんのよッ!」