私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

家までの道を歩いて帰る。


お袋はこのまま仕事に行くと言って病院で別れた。





あれ、今日のご飯なんて言ってたっけ?


ボロいアパートの階段を上りながら思い出そうとしたけど結局思い出せなかった。


「まぁいいやー」


お腹空いたしもう食べよ。


家のドアを開けて中に入る。


玄関を開けてすぐ、夕日が差し込む室内がやけに寂しさを感じさせる。


誰も居ないなんていつもじゃん。





だけどこの日は妙な違和感があった。





可笑しいなと感じながら玄関から数歩でたどり着く居間に学校の鞄をほっぽって電気を付ける。


ドラマなんかに出てきそうな小さなちゃぶ台を見ればそこにはラップされたご飯じゃなくて、1枚のメモとお金が。


手に取ったのは一万円が5枚と、ごめんねと書かれたメモ。


ご飯買えっていうなら言ってくれれば良かったのに。


そう思うのに嫌な汗が伝う。





捨てられた。





その言葉がよぎる。


「っ!」


俺は家を飛び出した。携帯なんて持ってなかったからお袋のお店に向かう為に。


勘違いだよ、って言って欲しくて。


「嘘だって言ってくれよ!」





夜のお店なんて行く事もなかったから迷子になりつつ、以前聞いていたお袋のお店にたどり着く。