私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

「水嶋!」


渡り廊下を鞄を持ちながら歩くその背中を呼ぶ。


「ましろんじゃん、何か用?」


「何か用って・・・、皆心配してるのよ」


何事もなくへらへらと笑うこいつに苛立ちを覚えるものの振り向いたその姿を見てはっとする。


「あんた、やつれた・・・?」


長袖を着ているせいか分かりにくいものの、最後に会った時から明らかに痩せている。


唇に血色は無く、クマだってある。


「はは、体調悪くてさー。食欲も出なくて困ったもんよ」


笑ってかわそうとするが、それだけじゃない。


「寝れてるの」


私は今の状態のお前に似ている人間を見てきたから分かる。今にも倒れそうじゃないか。


会わない間に何があったんだよ。子供っぽく笑うお前の笑顔はどこに行ったんだ?


「テスト勉強だっていいの?夏休みの予定あんなに計画してたじゃない」


私の質問に答える義理なんて無いというようにこいつは背を向ける。



それが、こいつにできる最大の意地だったのだろう。





振り向くと同時に、その細い身体は横へと傾いていく。


「水嶋!」


この声なんて意味はない。


バタリ、こいつは目の前で倒れてしまう。


急いで駆け寄り容態を確認する。





顔色は悪いものの、寝不足が主な原因のようだ。


アイツらを呼ぶべきか?


・・・いや、この様子だと会いたくないのだろう。





仕方なく中庭のベンチへ移動させることにした。