私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

「大したことしてないから気にしないで」


この言葉の通りだ。やったこととしたら倒れるであろう先に腕を伸ばして床と挨拶するのを止めただけ。
お礼を言われるほどのことはしていないが、それでもありがとうと深々と頭を下げる姿に今どき見ない律儀な子だなと感じた。


「優里!大丈夫か?」


「文くん!大丈夫、綾波さんが助けてくれたから!」


文くん(・・・)〜?


え、この子男なの?


女である私より可愛らしい見た目のこの子をまじまじと見てしまう。


視線が鬱陶しいのだろう眉を寄せこちらを見あげてくる。その顔さえ可愛いと感じてしまうのだが。


「んだよ」


「あら、ごめんなさいちびっ子」


いわゆる上目遣いにしか見えないんだよなー。
というかあらとか言っちゃったおえー。


未だに慣れない自分の女口調にちょっとした吐き気を覚える。


「ちびっ子言うんじゃねぇ!顔が良くて身長高いからって調子乗んな!」


「え、ありがとう?」


何故褒められた?


ただまだ何か言いたいようで言葉が思い浮かばない様子。そんなにちびっ子言われるの嫌だったか。


その姿は警戒心の強い犬のようだ。


「どーどー」


適当にあしらえば犬でもねぇ!と怒られる。


いやまぁ煽る私が全面的に悪いんだけどさ、止めてくれないかな?