私は‪✕‬‪✕‬を知らない I

「ロープ、ガラスの破片で切ったからその時に切れたみたい」


慌てて切ったから気づかなかったんだな。せっかく優里に手当して貰ったのに。・・・待てよ?


「!?」


やってしまった・・・。


よく確認をすれば借りたブレザーの襟元にも、滲んだ手で握っていたため血が付着してしまっていた。


「ごめんなさい、弁償するわ」


人様のものに申し訳ないことをした。


「いやいい。それよりも立てるか?」


申し訳なさは残るもののこんな場所にずっと居る訳にもいかないため立とうとするが、まだ薬が残っているのか体が言うことを聞かない。


どうしたものか・・・。


「・・・捕まれ」


「は───、!?」


皇の顔が近づいたかと思えば浮遊感と同時に柑橘系の香りに包まれる。


世に言うお姫様だっこをされているわけで・・・。


「は、離して!」


「離したところでどうするんだ?立てもしないのに」


「う"」


それは本当の事なので否定ができない。かと言ってこの構図は些か受け入れられないというか。


だけど、


傍にあるその綺麗な顔があまりにも真剣だから。


「・・・」


首に腕を回す事はできないため片手で皇の胸元のワイシャツを掴み、頭をそっと預けるように寄せた。


冷たい所にいたせいかじんわりと伝わる熱がひどく心地いい。