雨の日の出会い

「智史、あの……手、そろそろ……」

 水槽の魚に魅入っていたが、入場の時からずっと手を繋いだままだ。少しだけ大きな彼の手は最初ひんやりしていたが、繋いでいる内に温かくなってきた。握られている祐希の手は緊張で汗ばんできている。そのことに気付かれないよう控えめに告げると、パッと手が離れた。

「ごめんごめん。そのままだったね」

 手を解放されてホッと胸を撫でおろす。まだ繋いでいた手が熱い。水槽のガラスに手をあてて冷ましていると、彼はエイが動く姿を目で追っている。青い照明の下で嬉々として魚を見る智史の表情は、とても綺麗だと思った。

「この先に熱帯魚の水槽があるみたい。行ってみようか」
「あ、うん」

 歩き出した智史に相槌を打って共に歩き出す。熱帯魚エリア、クラゲエリアを見て回り、照明の明るくなった爬虫類エリアに入ると「すいませーん」と呼び止められた。

「写真撮ってもらえませんか?」
「僕ですか? いいですよ」

 胸元の空いたVネックの服を着ている髪の長い女性二人が、智史にカメラを手渡す。スタイルの良い二人の視線は彼に向いていて、写真を撮り終わった後も「どこから来たんですか〜?」など聞いている。彼目当てに声をかけてきたのは明らかだった。

――まあ、そうだよな……。

 特別目立つ格好をしているわけではないがルックスが良いし、モテても何ら不思議はない。そもそも友達が駄目でも、彼が誘えば断る女性はいないだろう。なぜ男である祐希に声をかけたのだろうか。そんなことを考えているうちに、彼は女性たちから離れていた。

「ごめん。何か声かけられて待たせちゃったね。ショーが始まるから行こうか」

 祐希の肩を軽く叩いて先を促す彼の後ろでは、女性二人がまだこっちを見ている。

「彼女たち、一緒に行かなくていいの?」
「祐希と来たんだから、祐希がいればいいよ」

 にっこり笑ってそんなことを言うのは反則だ。
 嬉しくて、気恥ずかしくて、火照った顔を隠すため足早に歩き出した。