雨の日の出会い

「水族館?」
「ここから一時間くらいで行けるみたいなんだけど、知ってる?」

 知ってるも何もこの辺りでは有名な水族館だ。飼育されている魚の数が多いらしく、館内では様々なイベントが行われていて評判が良い。水族館の隣にはショッピングセンターが併設されていて、利便性の良さも人気の一つである。
 だが傘の貸し借りから一転して、突然水族館に誘われる理由が分からない。呆然としている祐希を見て、智史が理由を付け加える。

「実は二ヶ月程前に引っ越してきたばかりで、まだ行ったことがないんだ。友達はみんな行ったことあるみたいだから、天野くんが行ってなかったらどうかなって」
「行ったことはないけど……」

 休日ともなれば人の数も多い。祐希の両親は人混みが苦手で、地元であるにも関わらず行ったことがなかった。興味がないわけではなかったが、祐希自身も人混みが得意ではない。両親譲りの性格は、余計なものを持ち歩きたくないところにも現れている。
 それでも、こうして誘われてみれば苦手よりも興味の方が勝る。何よりもう会えないと思っていた彼からの誘い。二つ返事で頷きたいところだが、また迷惑をかけないか気になって即答できなかった。

――どうしよう……行きたいけど、でも……

 固まったままイエスともノーとも言えないでいると、

「明日土曜だけど、天野くん予定ある?」
「いや、特には」
「決まりだね。十時にここで会おう」

 ニッコリ笑って有無を言わさない智史に誘導されるまま、返事をすることになった。物腰の柔らかさとは裏腹に、ここぞという時は押しが強い。初めて会った時に傘を渡された時もそうだった。

「また明日、よろしくね」

 黒い傘を片手にいつも通り背を向ける彼を見送る。
 まさか傘の貸し借りから、一緒に出かけることになるとは思わなかった。自身の身に起こった急展開に戸惑いつつ胸が高鳴っている。少しニヤけた顔を何とか引きしめて、立ち去った彼とは反対方向に駆けだした。

 ――明日はどうか晴れますように!