翌日。
未だすっきりとしない曇り空は広がっているが、雨は降っていない。祐希は学校帰りに彼が指定した場所で、借りた傘を返すために待っていた。もう一度、彼に会える。そのことが祐希を高揚させていく。たった一度会った彼に会うだけで、何故これほど落ち着かないのだろう。その答えを考える前に、肩を軽く叩かれて振り返った。
「ごめん。待った?」
「いや、いま来たとこだから大丈夫」
まるで恋人同士のようなやり取りに、気恥ずかしさが込み上げた。
「これ、ありがとう。助かった」
「ああ、役に立ったみたいで良かった」
傘を渡して頭を下げ、ちらりと目線を上げた。彼は出会った時と同じように優しく微笑んでいる。それだけで緊張してしまい僅かな沈黙が流れた。意を決して名前を聞こうとした時——
「あの、名前聞いてもいい?」
先に言葉を発したのは彼だった。全く同じことを聞こうとしていた祐希は目を見開き、慌てて声を出す。
「あ、あまの……ッ、天野祐希」
「僕は智史。川上智史だよ。よろしく」
少し高い祐希の声と違って、柔らかな低めの声で名乗った智史は片手を差し出した。祐希も制服のシャツで手汗を拭くと、手を出して握手を交わす。ひんやりした彼の手が緊張を和らげていく。
やはり年上だろうか。落ち着いた物腰はとても同年代には思えない。離れていく手を見送りながら祐希は「あの……」と再び口を開いた。だが、年齢を問いかけようとした声はザザァッと降り出した激しい雨音によって掻き消された。外を歩いていた人達が、慌てて駅に駆け込んでくる。
「また雨だね。傘、持ってる?」
「いえ、あの……持ってないです」
ちらっと目配せする智史に、思わず敬語で返した。傘を返してすぐ雨が降るなんてとんだ誤算だ。決まりの悪さに視線を落としたが、小さく吹き出す声に気付いて顔を上げた。
「ごめん。あまりに予想通りだったから、笑っちゃった」
「…………」
ほとんど初対面の彼に性格を見透かされていて、ぐうの音も出ない。何も言えずに黙っていると、出会った時と同じように傘を持たされた。
「使って。また明日、同じ時間にここで会おう」
「いえ、そう何度も借りるわけには」
「この雨のなか傘も差さずに帰ったら――いや、風邪引くといけないし僕は使わないから遠慮しないで」
流石に申し訳ないので傘を返そうとしたが、何か言いかけた智史を不思議に思い首を傾げる。しかしそれを問いかけるよりも先に、彼は踵を返して去って行ってしまった。確かにこれで風邪を引いたら、昨日傘を借りたことも無駄になる。それに何はともあれ再び会う理由ができた。祐希はそれ以上考えないことにして、雨のなか足取り軽く帰って行った。
未だすっきりとしない曇り空は広がっているが、雨は降っていない。祐希は学校帰りに彼が指定した場所で、借りた傘を返すために待っていた。もう一度、彼に会える。そのことが祐希を高揚させていく。たった一度会った彼に会うだけで、何故これほど落ち着かないのだろう。その答えを考える前に、肩を軽く叩かれて振り返った。
「ごめん。待った?」
「いや、いま来たとこだから大丈夫」
まるで恋人同士のようなやり取りに、気恥ずかしさが込み上げた。
「これ、ありがとう。助かった」
「ああ、役に立ったみたいで良かった」
傘を渡して頭を下げ、ちらりと目線を上げた。彼は出会った時と同じように優しく微笑んでいる。それだけで緊張してしまい僅かな沈黙が流れた。意を決して名前を聞こうとした時——
「あの、名前聞いてもいい?」
先に言葉を発したのは彼だった。全く同じことを聞こうとしていた祐希は目を見開き、慌てて声を出す。
「あ、あまの……ッ、天野祐希」
「僕は智史。川上智史だよ。よろしく」
少し高い祐希の声と違って、柔らかな低めの声で名乗った智史は片手を差し出した。祐希も制服のシャツで手汗を拭くと、手を出して握手を交わす。ひんやりした彼の手が緊張を和らげていく。
やはり年上だろうか。落ち着いた物腰はとても同年代には思えない。離れていく手を見送りながら祐希は「あの……」と再び口を開いた。だが、年齢を問いかけようとした声はザザァッと降り出した激しい雨音によって掻き消された。外を歩いていた人達が、慌てて駅に駆け込んでくる。
「また雨だね。傘、持ってる?」
「いえ、あの……持ってないです」
ちらっと目配せする智史に、思わず敬語で返した。傘を返してすぐ雨が降るなんてとんだ誤算だ。決まりの悪さに視線を落としたが、小さく吹き出す声に気付いて顔を上げた。
「ごめん。あまりに予想通りだったから、笑っちゃった」
「…………」
ほとんど初対面の彼に性格を見透かされていて、ぐうの音も出ない。何も言えずに黙っていると、出会った時と同じように傘を持たされた。
「使って。また明日、同じ時間にここで会おう」
「いえ、そう何度も借りるわけには」
「この雨のなか傘も差さずに帰ったら――いや、風邪引くといけないし僕は使わないから遠慮しないで」
流石に申し訳ないので傘を返そうとしたが、何か言いかけた智史を不思議に思い首を傾げる。しかしそれを問いかけるよりも先に、彼は踵を返して去って行ってしまった。確かにこれで風邪を引いたら、昨日傘を借りたことも無駄になる。それに何はともあれ再び会う理由ができた。祐希はそれ以上考えないことにして、雨のなか足取り軽く帰って行った。
