雨の日の出会い

「さっきの彼女……というか、彼女ではなくクライアントなんだ。つまり相談者で、彼氏と仲良くなるにはどうしたらいいかって相談を受けていたんだよ。偶然住んでるところも近くだったから、この間行った水族館の話になってね」
「そう、だったんだ」

 まさかそんな理由だなんて思いもせず、早とちりした挙げ句涙を見せるところだった。もう何度も穴があったら入りたい気持ちにさせられているが、今ほど強くそう思った時はなかった。祐希が羞恥で顔を上げられないでいるうちも、智史の話は続いていく。

 ネット相談をやり始めたのは大学に通い出して半年経った頃。物心ついた時から、人の心の動きが気になっていたこと。だから人の気持ちを勉強するために、大学は心理学を専攻したこと。ヘッドフォンに触れながら、どこか懐かしむように話す智史から目が離せない。

「最初は勉強のために始めたから無料でやっていたんだけど、連絡がすごくて追いつかなくなった。だから生活資金を貯めるために、お金をいただくことにしたんだ。実家から大学までは片道二時間かかってたけど、収入ができてここに住むようになってからは三十分で通えるようになった」

 駅直結のマンションに住めるほどの収入とはどれほどのものだろうか。さすがにそこまで踏み入ることはできずに、祐希は黙ったまま話に耳を傾ける。

「でも、一日に何人も話を聞いているとさすがに疲れてちゃってね……。そんな時に祐希を見つけたんだ」
「え、俺?」

 急に自分の名前が登場したことにうろたえていると、智史の視線が祐希に向いた。

「うん。リビングの窓から駅を見ていたら、雨のなか走る男の子がいるって気付いた。それも一度きりじゃなく、雨の予報が出てるのに毎回傘を持っていなくてね。何度も走ってるところを見ていたら、段々気になってきたんだ」

 確かにそれは祐希のことだ。両手で数えても足りないくらい、雨のなかを走っている。その時のことを思い出しているのか、智史がくすくすと笑い始めた。

「いつもカバンを頭に乗せて走る姿を見ていたら、何だか疲れも飛んでったよ。でも、ある時すごい雨が降った翌日から、しばらく姿を見ない日が続いてね」

 彼の言葉を聞いて記憶を遡ってみる。そういえば激しい雷雨だった次の日に風邪を引いたことがあった。珍しく高熱が出て一週間近く休んでしまい、授業の遅れを取り戻すのに必死だった覚えがある。

「どうしてるのかって、あの時はそればかり考えてた。だからもし今度雨が降ったら、絶対傘を渡しに行こうって決めてたんだ」

 まさか初めて会った時から雨の日に傘をもたないことを知られていたとは思わず、どのように反応すればいいのか分からなかった。ただ一つだけ分かったことは、二回目に会ったとき彼が言いかけたこと。

『この雨のなか傘も差さずに帰ったら……あ、いや、風邪引くといけないし僕は使わないから遠慮しないで』

 あの時、本当はまた風邪を引いてしまうと言いたかったのだろう。傘を持ってきてくれたのが偶然ではなく故意だったと聞かされ、恥ずかしくなって視線を落とした。