雨の日の出会い

「電話の声が、聞こえたんだ。彼女と水族館行くって話。智史が……どうして俺と行くって言ったのか、ずっと分からなかったんだけど、彼女と行く時の下見だって思ったら、何か……」

 悲しくて、と伝えきる前に目元が緩んできて慌てて制服の袖で顔を隠す。大したことじゃないのに、あの時間が嘘だったことを口にしたら、瞼の裏が熱くなるのを止められなかった。降りしきる雨にぐらつく感情が隠しきれないまま、ざあざあ響く雨音だけが祐希の耳に届いていたが——不意に音が止んだ。視界が暗くなる。一瞬何が起きたのか理解できなかった。背中に回った腕がぎゅっと強くなったことで、祐希は自分が抱きしめられていることに気付く。

「智史……?」
「違うよ。下見なんかじゃない。僕が祐希と行きたかったから、誘ったんだ」
「え?」

「ごめん。……本当は会う前から祐希のことを知ってた。全部話すよ。彼女のことも」

 会う前からと言われて驚きに目を開くが、彼女と聞いて思わず体が強張ってしまう。そんな祐希の緊張をほぐすように抱きしめる腕が背中をぽんぽんと叩いた。

「話すと長くなるから戻ろう。体が冷たくなってるから、温めないといけないしね」

 離れていく体を呆然と見送ると、いつの間にか繋がれた手に引かれるまま歩き出す。話してる途中で泣き出して、連れて行ってもらうなんて、まるで幼子のようで恥ずかしい。「ちゃんと着いていくから」と伝えて手を離したが、抱きしめられた温もりが胸の内から完全に消えることはなかった。