雨の日の出会い

「や、大丈夫。あんたが濡れる方が風邪引きそうだし」
「そこに住んでるから傘なくても平気だよ」

 彼が指差した先は高層マンションが立っていた。駅から雨をしのぐ屋根がマンションまで伸びている。どうやら駅直結のようだ。だが見ず知らずの人に傘を借りるのは気が引ける。やんわり断ろうとしたが、それよりも先に手が重なり傘を握らされた。祐希は驚いて目を瞬かせる。

「明日、同じ時間にここで待ってるから。その時に返してくれればいいよ」
「え、あ……じゃあ、お言葉に甘えて」

 強引に傘を渡されて、返す日時まで指定されては断る理由がない。卒の無い言動に戸惑いながらも「ありがとう」と頭を下げる。まるでホッとしたように笑う彼に心臓が音を立てた。

「それじゃあ、また明日」

 片手を振ってマンションに向かう彼を呆然と見送り、祐希は受け取った傘を見つめた。
 どくん、どくん。心臓の音がうるさく鳴り響く。ただ傘を貸してくれただけなのに繊細な顔立ちが忘れられなくて、胸元をぎゅっと握りしめた。

——何だよ、これ……

 周囲は次々と傘を広げて雑踏に姿を消す中、祐希はしばらく動けずにいた。やがて我に返ったように軽く首を振ると、借りた傘を広げる。地面の水をぱしゃりと跳ね上げて、その場を走り去った。