チョコにばかり気を取られていたが、カゴの隣には写真立てが飾られていた。ご両親の写真だろうか。お母さんと思われる女性と智史の優しい目元がよく似ている。お父さんは写真越しでも厳格な雰囲気が漂っていた。
「…………」
あまり本人のいないところであれこれ見てしまうのは気が引けるし、大人しく待とう。そう思ってソファに腰掛けたが、十分経っても出てくる気配はない。
雨は相変わらず降り続いている。バイトの電話だと言っていたし邪魔をしては申し訳ない。そろそろ帰ろうとカバンを片手にソファから立ち上がり、廊下を歩いていると智史の話し声がした。ドア越しに少しだけ聞こえてくる声が何だか妙に優しい気がして、勝手に聞いてはいけないと思いつつも祐希は耳をそばだてる。
「りかなら、大丈夫だよ」
智史の口から女性の名前と思われる声が聞こえて、心臓が急激に音を立てた。バイトの連絡と言っていたし、女性と話していても不思議ではない。何のバイトかまでは聞いていないが、きっとバイト先の人だろう。そう思って立ち去ろうとした祐希の耳に、再び声が届いた。
「今度、水族館はどう? 最近、行ってきたんだけどイルカショーはもう一度見たいと思うくらい良かったよ」
今度こそ、どくんと大きく鳴り響いた鼓動をごまかすことができなかった。胸元のシャツを握りしめる。ついこの間、行ってきた水族館。イルカショーを子どもみたいな顔で楽しんでいた智史。女性と楽しく話し続けている声。祐希の中でバラバラだったピースが一つ二つと合わさっていく。
——あれは、あの水族館はデートの下見だったんだ。
最初からどうして誘われたのか分からなかった。ほとんど初対面で、男同士で、お揃いにする意味も、嬉しそうだった智史の顔も、あの時は分からなかったことが、今の声で分かりすぎるくらい分かった。全ては彼女と出かけるため。彼女に見せる笑顔、彼女にしてあげることをしてくれていたんだ。
——なんで、どうして……
目元がじわりと、にじんでくるのだろう。シャツを握っている手が冷たい。まるで冷水でも浴びせられたかのように、足の爪先から頭まで血の気が引いていく。彼女がいたって不思議ではない。そう思っていたのに、急に襲ってくるこの感情はなんだろう。わけが分からなくて、これ以上智史の声を聞きたくなくて、いてもたってもいられなくて玄関へ向かう。靴を適当に履いて、バタンと玄関ドアを押し開けると全速力で駆け出した。
「…………」
あまり本人のいないところであれこれ見てしまうのは気が引けるし、大人しく待とう。そう思ってソファに腰掛けたが、十分経っても出てくる気配はない。
雨は相変わらず降り続いている。バイトの電話だと言っていたし邪魔をしては申し訳ない。そろそろ帰ろうとカバンを片手にソファから立ち上がり、廊下を歩いていると智史の話し声がした。ドア越しに少しだけ聞こえてくる声が何だか妙に優しい気がして、勝手に聞いてはいけないと思いつつも祐希は耳をそばだてる。
「りかなら、大丈夫だよ」
智史の口から女性の名前と思われる声が聞こえて、心臓が急激に音を立てた。バイトの連絡と言っていたし、女性と話していても不思議ではない。何のバイトかまでは聞いていないが、きっとバイト先の人だろう。そう思って立ち去ろうとした祐希の耳に、再び声が届いた。
「今度、水族館はどう? 最近、行ってきたんだけどイルカショーはもう一度見たいと思うくらい良かったよ」
今度こそ、どくんと大きく鳴り響いた鼓動をごまかすことができなかった。胸元のシャツを握りしめる。ついこの間、行ってきた水族館。イルカショーを子どもみたいな顔で楽しんでいた智史。女性と楽しく話し続けている声。祐希の中でバラバラだったピースが一つ二つと合わさっていく。
——あれは、あの水族館はデートの下見だったんだ。
最初からどうして誘われたのか分からなかった。ほとんど初対面で、男同士で、お揃いにする意味も、嬉しそうだった智史の顔も、あの時は分からなかったことが、今の声で分かりすぎるくらい分かった。全ては彼女と出かけるため。彼女に見せる笑顔、彼女にしてあげることをしてくれていたんだ。
——なんで、どうして……
目元がじわりと、にじんでくるのだろう。シャツを握っている手が冷たい。まるで冷水でも浴びせられたかのように、足の爪先から頭まで血の気が引いていく。彼女がいたって不思議ではない。そう思っていたのに、急に襲ってくるこの感情はなんだろう。わけが分からなくて、これ以上智史の声を聞きたくなくて、いてもたってもいられなくて玄関へ向かう。靴を適当に履いて、バタンと玄関ドアを押し開けると全速力で駆け出した。
