「はい、お待たせ。私もご一緒させてね」

 私はクリームソーダをテーブルに二つ置いた。
 グラスを見たギドウくんの顔がぱっと輝く。

「緑のソーダ、バニラの白、赤いチェリー……完璧な美しさだな。ほんと、クリームソーダを考えた人って天才だ!」
「ね!」

 ギドウくんの笑顔に私も嬉しくなる。
 アイスクリームをスプーンですくいながら、ギドウくんが口を開いた。

「でもまさか、ハコちゃんが喫茶店を継いでいたとはね」
「そんないいもんじゃないの。高校を卒業して、建設会社で事務の仕事をしていたんだけど、うまくいかなくて退職して……。なんやかんやで喫茶店を手伝うようになって……それだけ」

「おじいちゃんは?」
「体調を崩して入院中」
「そっか……」

 暗い雰囲気にならないよう、私はことさら明るい声を出した。

「私もいつまで続けるか悩んでいたの。だから、ビルの取り壊しはいいタイミングだと思ってる」

 強がりに見えないよう、自然に笑えているだろうか。
 本当は不安でいっぱいだ。

 これから、どうしよう。
 地元で仕事を探すか、どこか都会に出てみるか――まだ決めかねている。
 私はこの喫茶店と一緒だ。ずっと昔のまま時が止まっている。

「ギドウくんは引っ越してから、どうしてたの?」

 私たちが小学校五年生のとき、ギドウくんは離婚したお母さんについて東京へ引っ越した。
 そこから十三年、音信不通だった。

「母さんは仕事が向いてたみたいで、生き生きしてるよ。今、デザイン会社で働いている」
「すごいね!」

 ギドウくんのお母さんはいつもキリッとした素敵な女性だった。
 この喫茶店によくギドウくんを連れてコーヒーを飲みに来てくれていた。

 今思えば、あれがギドウくんのお母さんの息抜きだったのかもしれない。
 元々東京出身で、結婚して(とつ)いできたこの土地にあまり馴染めていないようだった。

「ギドウくんは?」
「俺は大学を卒業して、今は小説家」
「ええ!?」

 思いがけない言葉に私は絶句した。
 確かにギドウくんはよく本を読んでいて、少し大人びたところがある少年だった。