─ピーンポーン…


「おわ!夏海かな?来るのはっや!ごめんお母さん、代わりに出てて~」

 今日は夏祭りの日。

 彼氏の夏海と一緒に夏祭りに行く為に、久しぶりの浴衣に苦戦しながら、どうにかこうにか着ることができた。
 髪をお団子に束ね、メイクもして、最後に姿見で確認すると。

「よしっ!」

 私は急いで玄関の方に行った。
 玄関では、夏海と私のお母さんが談笑していた。

「ごめん、夏海!浴衣着るのに手間取っちゃって…」
「こんばんは、あか…り」

 お母さんと何か笑いながら話していた夏海は、私が来ると目を大きく見開かせながら、私のことを見つめた。

「灯、はしゃぎすぎて夏海君にあまり迷惑かけちゃダメよ」
「わかってるよ。行ってきまーす」

 そうお母さんに言って、家を出た。



「…ねえ、何か怒ってる?」
「…別に」

 夏祭りに向かう途中。手を繋ぎながら隣を歩く彼の様子がおかしい。おかしいというか、何か不機嫌というか…

「浴衣…もしかしてダメだった?」
「ダメ…じゃないよ。めちゃくちゃ可愛いよ。でも…」
「でも?」

 だんだん、周りが騒がしくなってくる。みんな、お祭りに向かっている人たちだろう、浴衣を着た人たちがちらほらいた。
 すると。

「きゃっ!ちょ、夏海!?」

 ぐいっ!と、急に夏海に腕を引っ張られ、人気の無い薄暗い路地裏に連れてこられた。

「…どうしたの?なつ…」

 怒ってるような悲しいような…何とも言えない表情で私を見つめたと思ったら、ぎゅっ…と、夏海は私の体を抱き寄せた。

「…嫌だ、祭りに行きたくない」
「え?何で?昨日あんなに楽しみにしてたのに。急にどうしたの?」
「…浴衣姿の灯がいつにも増してめちゃくちゃ可愛いからさ。同級のヤツとか…てか、誰にも見せたくない」

 そう言って、夏海はぎゅっと、私の体をもっと抱き寄せた。優しく…けれども強く。

「なぁに?私が浮気するとでも?」
「そうじゃなくて、可愛い灯を独り占めしたいんだよ」
「…2人きりで行くんだから、これはもう充分に独り占めって言うんじゃないかな?」
「でも…」
「も~…これじゃあお祭り行けないじゃん」

 ため息をつきながら、抱き締める夏海を体から引き剥がし。


 ──────…


「んっ…」

 夏海の頬を両手で触れながら…夏海にキスした。触れるように…深く、奪うように。

「…灯」
「…じゃあ、祭りの間、私のこと…ずっと見てて。こんな風に…」

 夏海の瞳をじっ…と見つめ、私はまた夏海にキスした。



 人気の無い路地。

 私は夏海を独り占めする…