「匡がグレたときに廊下でもめてた先輩だよ。」

「んー…ん~?」

まったく思い出せていない様子。

「私と長崎くんで必死に止めたのに!
忘れたの?」

「ああ!あんときの。」


「思い出すのに時間かかりすぎなんだよ!
ていうか、やっぱ不良には不良の彼女なんだな。」

その先輩は私を見て、鼻で笑った。

「こ、これは私のクラスの出し物で…「あ??」

匡がドスの効いた声で先輩に近づく。


「アハハ~、あの人バカなのかな?」

楽しそうに傍観する祐介くん。
止めるつもりはないらしい。

「匡、コイツ校舎裏決定。だよな?」

「半殺しにしてやる。」

「っ…」

本気の二人の目を見て、先輩の顔は一気に青ざめていく。

たしかに…この人バカ…かも。


「匡!!ダメ!!」

私は大声を出し、匡の腕を掴んで引き留めた。



「都ちゃん、邪魔しないでよ。
久々の匡との共同作業♡」

「ダメったらダメ!
私たちの文化祭をケンカ騒ぎなんて起こして
台無しにしないでよ!」

「だってコイツが…」

「大事な思い出の1ページ…
二度と戻らない高1の青春行事…」

私が悲しそうな顔でそう呟くと、
太一くんの顔もつられて悲しそうな表情になる。

「うっ…
わかったよ…」

太一くんは渋々ポケットに両手を突っ込んだ。

「ありがとう!」

太一くん、なんだかんだ優しいんだな。
やっぱり匡の友達だ。

あとはその…
「匡」

「俺はやめねぇぞ。
都のこと鼻で笑いやがった、この野郎。」

「いいのよ。
そもそもこの格好ウケ狙いでしょ?」

「うるせぇ、殴る。」

「匡!」

じりじりと先輩に詰め寄る。

「やめないなら…
これから一緒にお昼ごはん食べてあげない!」




「「っぷはは!!」」

祐介くんと太一くんが同時に吹き出す。

「なんだそれ。そんなんでやめるかよ。」
「お昼ごはん…ホントに友達いないのかよ匡!」


「わかった。やめる。」

「「ええっ!!?」」

今度は二人同時に驚く。

「やめんのかよ!」

「都と一緒にいられなくなるならいい。
あと、都と西園寺にハブられたらかなりへこむし。」

「ハハッ…なんだよ、それ」


匡も太一くんも襲ってこないとわかり安心したのか、先輩は「バーカ」と捨て台詞を残して去っていった。


「ムカつくけど、我慢我慢」

「ありがとう、太一くん」

「にしても、キレた匡を止めるなんてやるじゃん。」

「そうなの…?」

にっこり頷く太一くんを見て、少しの優越感を覚える。

「これからも頑張るよ、私」

「うん、そうしてやって。
匡、危なっかしいからな。」

「「お前が言うな。」」

すかさず匡と祐介くんに突っ込まれて、
4人に笑いが生まれた。




「じゃ、お二人さん。楽しんで。」
「またね~」

「あ、うん!また!」
「…じゃあな」

二人は笑顔で私たちに手を振った。

「二人、もう帰るのかな?
もう少しのんびりしてけばいいのに…」

「違うだろ。少なくとも祐介は。」

「え?」


隣の匡を見上げると、かすかに残った怒りの火を目に灯して、二人の背中を見つめている。


「今からあのバカ先輩しめるんだろ。」


「…へ?」


「あいつ殴るのやめたの、都と昼飯食えなくなるからってのもあるけど、
このあと祐介がどうにかすると思ったからだよ。」


「……」
私は驚きで口をパクパクさせている。

「安心しろよ。
学校の外でやるって。
初めて会ったとき言ったろ。祐介は腹黒だって」

「祐介くんっていったい何者…」

「言ってなかったっけ?
西二高の不良トップだよ。」

「ええっ!!?」

西二高と言えば、がらの悪い不良しかいないイメージの高校だ。

1年生なのにそんな高校のトップ…!?


「じゃあ、俺らは宣伝するか。」

「あ、は、ハイ…。」

東京一の不良高校のトップと対等な関係の匡…

いろいろ衝撃的だけど、匡を止めるには『お昼ごはんぼっち』をほのめかすだけでいいなんて…
可愛いじゃないか。


私はにやけているのを隠すように、
匡の少し後ろをついて歩いた。