サイレント&メロディアス

うちの妻の名前は「さおり」さんと言う。漢字はご想像におまかせ。もしかしたらひらがなかカタカナかもな。
俺より半年生まれが早く学年はひとつ上。うちの叔母がセッティングしたお見合いで出会った。
さおりさんは無口だ。めったにしゃべらない。どんぐりまなこの茶色の目、ぷっくりしていて常にうす赤いほっぺ、口は小さいが下唇がぽてっとしている。丸顔、色白、童顔、清楚。背中まである黒いストレートの髪をいつもハーフアップにしている。
俺は営業部員でしゃべることが生業だ。だから家ではなるべく静かに過ごしたい。さおりさんはいつも静かだしアロマディフューザーよりも癒される。俺より体温が高いから四季を通じてぬくぬく。笑顔が可愛い。滅多に怒ることがない。
ただし、

都合の良い女と言うわけではない。意見が合わないときは部屋に逃げて出てこなかったり、ハンガーストライキを敢行したり、ふっと家出してしまうことさえある。真夏に暖房をつけたまま。きちんと自分の意見をもっていて、いやなことはいやだと主張する。だからいっしょにいてラクだし安心する。
(真夏に暖房つけて家出するのはもう勘弁してほしい)

「さおりさん、ごはんできましたよ」