明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

尚文は、下唇をキュッと噛み、考え込む。そして、将吾へと問いかける。

「僕たち、輝明叔父さんに、恨みを買うような心当たりなんてないよな?」

 尚文に問われ、将吾は首を横に振った。

「全くない。正月に顔を合わせたときも、ごく普通に話をした。だが、死んだ男がたまたま叔父のところに居たとは……。それだけかもしれないが、気になる」

 将吾は、小さくため息を吐き出した。
 すると尚文が考え込むように顎に手を当て、口を開く。

「ぶっちゃけ、人の妬みや嫉みって、知らないうちに向けられるからな……。それに、たまたま毒入りグラスが将吾に回っただけかもしれない。グラスが逆だったら、俺が飲んでた可能性だってある」

「確かに……」

 将吾は、舞踏会での出来事を思い返していた。
 給仕が運んだ二つのグラス。そのうち片方だけに毒が盛られていた。
 あのとき、将吾と尚文のどちらが手に取るかは、誰にもわからなかった。
 あのまま葡萄酒を飲み干していたら……。
 一人が命を落とし、もう一方が殺人犯に仕立て上げられていたかもしれない。

「俺たち二人が倒れて、一体誰が得をする……?」

 低く呟いた将吾の問いに、尚文はソファの背凭れに深くもたれ、天井を仰いだ。

「まったく、疑いだしたらキリがない。だが……」

「……そうだな」

 将吾は腕を組み、思案を深めた。
 そして、もうひとつの調査の進捗を報告する。

「あとは、玲子殿を襲ったあのならず者の取り調べを進めている。『金で雇われただけ』と口を割らないが、元締めの名さえ出させれば、そこから依頼人まで辿るつもりだ」