「これでいい?」
「はい、ありがとうございます」
玲子は慎重に定規を当てて、まずは身丈(背中の中心ライン)、ついで裄丈(背中心から手首)、袖幅(肩から手首)と進めていく。
尚文に寄り添うようにして採寸を続ける玲子。ふたりはときおり笑顔を交わしながら、色や袖丈の相談も楽しげにしていた。
近くにいれば、それだけ距離が縮まるのは当然だ。採寸だから仕方がない。そう頭では分かっていても、将吾の胸中は穏やかではなかった。
平静を装ってはいるが、すぐにも間に割って入り、玲子を抱き寄せたくなる衝動を抑えていた。
そんな中、不意に玲子が振り返る。
「お次は、将吾様ですね」
差し込んだ陽の光のような玲子の笑顔に、荒れていた将吾の心がふわりとほどける。
己の気持ちを制御できずにいたことが情けなく思え、彼は細く息を吐いた。
「ああ、頼む」
「将吾様は背が高いですから、生地は一反では足りないかもしれませんね。二反用意するようでしたら、せっかくですし、羽織も仕立てさせてください」
身長差から自然と玲子は上目遣いになる。
その大きな黒い瞳でまっすぐに見つめられ、将吾の胸の奥にまたさざ波が立った。
そっと顔を逸らし、窓の外へ視線を移す。だが、玲子から漂う女の子特有の香りがふわりと鼻先をくすぐり、意識は否応なく彼女に向かう。
「玲子君、オレにも羽織をお願いしていいかな?」
尚文の声が、またもや玲子とのあいだに割って入ってくる。
将吾の口が、無意識にへの字になる。
「はい、わかりました。お任せください」
玲子はそれに気づかず、尚文へと向き直って微笑む。
『あはは、まったく楽しゅうてしょうがないでござる』
一将は、両孫の恋模様を見守るようにして、空中で腕を組みニタニタしている。


