明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 支度金も、今後の人脈も、松林屋とは比べものにならない。
 自分を裏切り、男と駆け落ちした女の娘。ハズレ物と蔑んでいた玲子。
 それが藤堂から望まれるとは、隆之にとって、まさに大金星だった。

「これ以上騒ぎ立てるようなら、お前を松林屋にやるぞ」

 この一言に、黙っていられなかったのが百合絵だった。

「あなた、それはあんまりです!」

「お前が舞香を甘やかすから、こんな我が儘が通じると思っているんだ。しっかり躾けておけ!」

 吐き捨てるように言い残し、隆之は襖を乱暴に閉めて部屋を出ていった。
 取り残された舞香は、悔しさに震えながら母に縋りついた。

「お母様、玲子なんかがずるい……。私のほうが、藤堂様にふさわしいのに!」

 すると、百合絵がゆっくりと顔を上げ、娘の手を握りしめる。

「そうね。あなたの方が、玲子なんかよりずっと藤堂様にふさわしいわ。大丈夫よ。必ず、玲子を引きずり下ろして、あなたを藤堂様の花嫁にしてあげる」

 妾腹の娘なんかより、自分の娘の方が藤堂には相応しいと、百合絵は信じて疑わなかった。そして、決意を固めるように唇をかみしめた。