舞香は助けを求めるように、母の百合絵ににじり寄る。だが、百合絵は眉間に皺を寄せ、眉を吊り上げている。
その怒りの表情に、舞香は一歩後ずさった。
松林との縁談は、百合絵が勝手に進めたものだった。
しかも、玲子を襲わせて既成事実を作り、家から追い出そうという悪企みまで……。それが露見しては一大事だと、百合絵は知らぬふりを装っていた。
しかし、これ以上、舞香が口を滑らないように止めに入りたい。百合絵は背中に冷たい汗を感じながらも、後れ毛を耳にかけて口を開いた。
「い、いやだわ。舞香ったら、何か勘違いをしているのね。いくらなんでも、松林屋に嫁がせるだなんて……あるはずないわ」
「当たり前だ! 出戻りならいざ知らず、男爵家の娘を年寄りの商家に嫁がせるなど、どこの馬鹿がするか!」
憤る隆之の言葉も耳に入らず、舞香は叫ぶ。
「でも、玲子がいなくなれば、私が藤堂様の花嫁になれるでしょ? お父様、玲子を松林にやって、私を藤堂様の花嫁にしてください!」
わめき続ける舞香に、隆之はついに堪忍袋の緒が切れた。
右手を振り上げ、容赦なく舞香の頬を打ち据える。
「うるさいっ!」
バシッと肉を打つ音が響き、「きゃあっ」と舞香の悲鳴が飛んだ。 畳の上に倒れ込んだ舞香に、隆之は指を突きつけて怒鳴る。
「藤堂が選んだのは玲子だ。お前が何を言っても、無駄だ。もう決まったんだ!」


