一将と名乗る幽霊の様子を玲子は興味深く窺った。
『なんだ、ジロジロと見て、そんなに拙者の顔が気に入ったのか。残念ながら、拙者は幽体ゆえ話し相手にしかならん。伴侶を望むなら将吾か尚文のどちらかにしてくれ』
一将は、まんざらでもないという顔をして、冗談めかした口調で返す。
予想もしていなかった事を言われた玲子は目をまんまるくし、そして、柔らかく微笑んだ。
「まあ、そんなことを仰るなんて。冗談がお好きなんですね」
玲子の声には、恐れも躊躇もない。
まるで昔からの知り合いにでも話すような、自然で柔らかい声音だった。
『……ほう、幽霊に笑いかける娘など、初めて見たぞ。拙者の冗談に笑ってくれるとは、これは貴重な話し相手を得たかもしれんな』
「一将様の冗談は、普通の方より楽しい気がします。きっと長い間、色んなものを見てきたからですね」
『ふむ……玲子殿。そなた、幽霊との会話にまったく臆しないのう』
「そうですね、幽霊よりも生きている人の方が怖いときがありますから」
玲子はふわりと笑った。
寂しげだが、どこか達観したような微笑み。
その笑顔に、一将は何も言えなくなった。
『……なるほど。おぬし、たくさんの経験を積んでいるようだ。ただの娘ではないな』
その言葉に玲子の顔から、笑顔は消えた。そして、寂しそうに首を横に振る。
「そんな……買いかぶりすぎです。わたくしは、榊原の“ハズレ者”です」


