廊下を進む足音が、やけに大きく響いていた。
将吾の腕に抱き上げられたままの玲子は、頬が熱くなり、どうしていいかわからず視線を泳がせる。
「し、将吾様……わ、わたくし、自分で歩けますから……!」
声を震わせて訴えるが、将吾は足を止めなかった。
逞しい腕の中、玲子は小さな子どものように軽々と運ばれていく。
「倒れられては困る。……玲子殿に必要なのは、無理をしないことだ」
低い声が、胸の奥まで届くようだった。玲子は抗う言葉を失い、ただ鼓動の早まりを抑えられない。
やがて将吾は客間の前に立ち止まり、そっと扉を開けた。
部屋には、夜の静けさが広がる。
玲子をベッドの端に降ろすと、彼は少しだけ間を置いて見下ろした。
「……ここでなら、誰にも邪魔されぬ。安心して休め」
短い言葉なのに、玲子には涙が込み上げそうになるほど温かく感じられた。
「ありがとうございます」
将吾は玲子から目を逸らし、背を向けかけたが、ふと立ち止まる。
(これまで……どれほどの孤独を背負っていたのか。俺は……守りたいのか)
胸の奥に芽生えた感情に、将吾自身も戸惑っていた。だが、視線を戻せば、玲子の不安げな瞳が彼を見上げている。
「玲子殿」
思わず名を呼ぶ声に、玲子の肩が小さく震えた。
将吾は言葉を紡がぬまま、ただ静かに頷いて部屋を後にする。
残された玲子は、まだ火照った頬を手で覆いながら、胸の鼓動を必死に鎮めようとしていた。


