明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

 榊原家で居場所のない玲子の胸に、尚文の「目の届く場所にいてほしい」という言葉がじんわりと染み入る。
 けれど、その温かさに触れれば触れるほど、彼らに迷惑をかけたくないという思いが強くなる。

「ありがとうございます。でも……わたくしがここに居ては、ご迷惑をおかけすることになります。やはり、家に戻ります」

 そう言って、玲子は小さく震える拳を膝の上で握りしめた。
 自分のことを誰かに話すのは、恥ずかしくて、胸が締めつけられるほどつらい。
 でも、いま伝えなければ……。
  玲子は、ほんの少し残った勇気を振り絞った。

「……お恥ずかしい話ですが、わたくしは榊原の家で“ハズレ者”と呼ばれ、家族とも認められず……離れで内職をして食いつなぐ日々を送っております」

 尚文と将吾は、真剣な面持ちで玲子の言葉に耳を傾けていた。
 玲子は、鼻の奥がツンとし、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえ、話しを続ける。

「実は最近、その内職先の商家と……縁談が進められているようなのです。昨日、仕立て上がった反物を届けに行った際に、そのような話を耳にしました。……そんな状況のわたくしが、この家に滞在すれば、ふしだらな噂が立つことでしょう。そうなれば、将吾様や尚文様のお名前が、わたくしのせいで……」

 自らの不幸よりも、ふたりの名誉を案じていた。
 尚文は、そっと尋ねる。

「玲子君は……その商家に嫁ぐことを、どう思っているの?」

 玲子は戸惑い、視線をあちこちにさまよわせる。
 そして、か細い声で答えた。

「そ……それは……親が決めたことなら……」