尚文は、恋人自慢でもするように続ける。
「舞踏会で近寄ってくる令嬢たちはさ、皆、藤堂を目当てに近づいてくる。僕自身を見ているわけじゃないんだ。そういうのって、冷めるよね」
「……ああ、まったくだー」
「その点、玲子君は藤堂の名を聞いても媚びるでもなく、ひとりの人間として接してくれる」
「そうだな」
「あの真っ直ぐな黒い瞳に見つめられたら、不思議な気持ちになったよ。……彼女のためなら、少々高めの支度金を用意したとしても惜しくはないよ」
尚文の本気を感じ取り、将吾は無意識に顎に手をやる。
あの、初めて目が合った時の玲子の瞳……。
長い睫毛に縁取られた、大きな黒い瞳。
自信なさげに俯きがちなその姿は、妙に心に引っかかった。
無意識のうちに連れて帰ってきたのも、あのまま放っておけなかったからだ。
(尚文が、玲子殿を結婚相手に……)
理屈としては喜ばしい。尚文は人を見る目があり、実業家としても優秀だ。
けれど、将吾の胸にわだかまる感情の正体を掴めないまま、静かに燻っていた。
「……とにかく、榊原には、『玲子殿は高熱で倒れ、絶対安静が必要だ』ということで、こちらから使いを出そう。医者の診断書も用意すれば文句は言えまい」
「うん、それは良い案だね。あとは……預かりの名目を花嫁修業にしてしまえば、周囲も文句をつけにくいと思うけど?」
尚文はソファに深く身を沈め、腕を広げる。
将吾は半ば呆れ顔で言った。
「それは……玲子殿の意思を無視して決めていい話じゃない」
「でもさ、ぐずぐずしてるうちに、松林との縁談が進むかもしれないんだぞ? 今は、先手を打つことが大事だと思う」
尚文の言葉に、将吾はぐっと詰まる。
(……確かに。時間がない)
「舞踏会で近寄ってくる令嬢たちはさ、皆、藤堂を目当てに近づいてくる。僕自身を見ているわけじゃないんだ。そういうのって、冷めるよね」
「……ああ、まったくだー」
「その点、玲子君は藤堂の名を聞いても媚びるでもなく、ひとりの人間として接してくれる」
「そうだな」
「あの真っ直ぐな黒い瞳に見つめられたら、不思議な気持ちになったよ。……彼女のためなら、少々高めの支度金を用意したとしても惜しくはないよ」
尚文の本気を感じ取り、将吾は無意識に顎に手をやる。
あの、初めて目が合った時の玲子の瞳……。
長い睫毛に縁取られた、大きな黒い瞳。
自信なさげに俯きがちなその姿は、妙に心に引っかかった。
無意識のうちに連れて帰ってきたのも、あのまま放っておけなかったからだ。
(尚文が、玲子殿を結婚相手に……)
理屈としては喜ばしい。尚文は人を見る目があり、実業家としても優秀だ。
けれど、将吾の胸にわだかまる感情の正体を掴めないまま、静かに燻っていた。
「……とにかく、榊原には、『玲子殿は高熱で倒れ、絶対安静が必要だ』ということで、こちらから使いを出そう。医者の診断書も用意すれば文句は言えまい」
「うん、それは良い案だね。あとは……預かりの名目を花嫁修業にしてしまえば、周囲も文句をつけにくいと思うけど?」
尚文はソファに深く身を沈め、腕を広げる。
将吾は半ば呆れ顔で言った。
「それは……玲子殿の意思を無視して決めていい話じゃない」
「でもさ、ぐずぐずしてるうちに、松林との縁談が進むかもしれないんだぞ? 今は、先手を打つことが大事だと思う」
尚文の言葉に、将吾はぐっと詰まる。
(……確かに。時間がない)


